2022年8月19日
日本の教員が他国と比べてあまりにも多くの業務・役割を担わされていることは、今となっては周知の事実と言えるでしょう。学校における働き方改革に関する総合的な方策について諮問された中央教育審議会が2019年1月に出した答申には、次のような記述があります――「膨大になってしまった学校及び教師の業務の範囲を明確にし,限られた時間の中で,教師の専門性を生かしつつ,授業改善のための時間や児童生徒に接する時間を確保できる勤務環境を整備することが必要である」。
この答申が出されてから3年以上が経ち、ようやく茨城県も教員の職務の明確化に向けて動き出すことになりました。今回の記事では、その経緯や具体的な内容について解説した上で、今後の課題を述べたいと思います。
「働き方改革」の答申を踏まえて文科省は何をしたか?
冒頭で示した中央教育審議会(以下、中教審)の答申について、もう少し詳しく見ていきましょう。答申の第4章「学校及び教師が担う業務の明確化・適正化」の中では、これまで学校・教師が担ってきた代表的な業務の在り方に関する考え方が下表のように整理されています。また、文科省が取り組むべき方策として「関係機関や社会全体に対して何が学校や教師の役割か明確にメッセージを発出」「学校・教師が担うべき業務の範囲について,学校現場や地域,保護者等の間における共有のため,学校管理規則のモデル(学校や教師・事務職員等の標準職務の明確化)を周知」等々が挙げられています。
中教審の答申を踏まえて、文科省は2020年7月に「教諭等の標準的な職務の明確化に係る学校管理規則参考例等の送付について(通知)」を発出しました。この通知の宛先は都道府県・指定都市教育委員会となっているため、茨城県教育委員会も当然通知の対象ということになります。
それでは、この通知によって文科省から各地の教育委員会に何が伝達されたのでしょうか。ポイントとなる箇所を通知本文から引用します。
各教育委員会においては,本参考例を教諭等の職務内容を定めるための基礎資料として活用いただくとともに,必要に応じて,本参考例を活用して関係規定等を整備いただき,教諭等の標準的な職務の明確化を図り,教諭等がその専門性を発揮し本来の職務に集中できるような環境を整備していただくようお願いします。
各都道府県教育委員会におかれては,域内の市(指定都市を除く。)区町村教育委員会に対して,本件について周知を図るとともに,本参考例を活用し,教諭等をはじめとする学校に置かれる職の標準的な職務の明確化を図ることについて,指導・助言いただくようお願いします。
教員が専門性を発揮し本来の職務に集中できるように、学校管理規則などの関係規定を整備することで「標準的な職務の明確化」を図るよう要請していることがわかります。もちろん、各教育委員会が「あれもこれも教員の標準的な職務だ」としては意味がありませんので、上の表における①~⑧は標準的な職務の例から除外されています。
当会の働きかけと茨城県教育委員会の対応
2021年11月某日、当会は茨城県教育委員会(以下、県教委)の担当者に電話をして、「県内の市町村教育委員会に対して標準的な職務の明確化について周知を図りましたか?」という質問を行いました。すると、文科省の通知から1年以上が経過しているにもかかわらず、「まだ市町村への周知を行っていない」という回答が返ってきました。12月に再び電話をして、いつまでに周知できそうかと尋ねたところ、「年度末までには周知できる予定」という回答が得られました。そして2022年3月31日、県教委から市町村教委に対してようやく本件に関する通知が発出されました。
ちなみに、県教委の担当者は、周知に時間がかかっている理由について次のように答えていました――「まずは働き方改革を検討・実行するための組織を各市町村の方で作っていただいている」「周知だけでなく周知徹底を図る前提を整えることが重要だと考えている」。つまり、3月31日の県教委通知は、満を持して発出されたものであると考えられます。各市町村における標準的な職務の明確化に係る関係規定の整備は、滞りなく速やかに進んでいることでしょう。
「標準的な職務の明確化」の意義と課題
ところで、市町村教委の学校管理規則等において教員の標準的な職務が定められた場合、当該市町村の教員は「標準的な職務」以外の業務から解放されるのでしょうか。これについては、文科省通知に次のような記述があります。
標準職務例に具体的な職務として掲げていない職務であっても,学校規模,教職員の配置数や経験年数,各学校・地域等の実情に応じて教諭等が担うことが必要と校長が認める職務については,校務分掌に位置付けることが可能であること。その場合には,標準職務例に具体的に掲げている職務を整理及び精選した上で実施することが基本的に前提であると考えられること。
つまり、標準的な職務として掲げられていない業務についても「校長判断」で教員に担当させることができてしまいます。これだけを聞くと、本施策が無意味のように感じてしまう方もいるかもしれません。しかし、教員にとって優先順位の高い業務が法令上はっきりすることの意義は決して小さくありません。少なくとも、部活動顧問を「校務分掌の一つ」として各教員に割り振るような運用は、今後ますます許されなくなるでしょう。
まずは、県内の市町村教委が県教委の通知に基づいて関係規定の整備を着実に進めているかどうかをチェックしなければなりません。また、高校や特別支援学校については県教委の管轄であるため、県教委への働きかけも継続していく必要があります。
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